はじめに:56歳の私が感じる「新しい60代」の足音

2026年5月、新緑が目に鮮やかな季節となりました。経済ニュースでは、平均5%を超える賃上げ率が報じられ、明るい兆しも見えます。
しかし、中東情勢の緊迫化によるエネルギー価格の高騰など、インフレの波は依然として私たちの生活に影響を与え続けています。
私自身、56歳の会社員として、60歳の定年を目前に控える中で、この先のキャリアや生活設計について日々考えています。そんな私にとって、そして同年代の多くの50代後半の会社員の方々にとって、見過ごせない大きな制度改正が動き出しています。
それが、2026年4月から本格的に導入された「在職老齢年金制度の見直し」です。
この制度改正は、単なる年金の話に留まりません。CFP(ファイナンシャルプランナー)として個人の家計や資産形成の視点から、そして中小企業診断士の学習を通じて企業の経営・人材戦略の視点から、
この変化が私たちの「新しい60代」のキャリアと、企業の未来にどのような可能性をもたらすのかを、私なりの視点で深掘りして解説したいと思います。
1. 2026年改革の核心:在職老齢年金の「50万円」から「62万円」への引き上げ

今回の制度改正で最も注目すべき点は、働きながら年金を受け取る高齢者の年金が減額される基準額、いわゆる「支給停止基準額」が大きく引き上げられたことです。これまでは月額50万円を超えると年金がカットされていましたが、2026年4月からは月額62万円へと変更されました。
具体的な変更点は以下の表をご覧ください。
| 項目 | 2025年度まで | 2026年4月以降 |
|---|---|---|
| 支給停止基準額 | 月額 50万円 | 月額 62万円 |
| 対象 | 60歳以上の厚生年金被保険者 | 同左 |
| 計算式 | (基本月額 + 総報酬月額相当額) > 50万円 | (基本月額 + 総報酬月額相当額) > 62万円 |
これまでの「賃金と年金の合計が50万円」という基準は、多くのシニア層にとって「働き損」を避けるための就業調整を促す要因となっていました。
例えば、もう少し働きたいと思っても、年金が減ることを懸念して労働時間を短縮したり、役職を辞退したりするケースも少なくありませんでした。
しかし、この基準が62万円へと大幅に引き上げられたことで、月額12万円分の「ゆとり」が生まれたことになります。これは、私たちがより柔軟に、そして意欲的に働き続けるための大きな後押しとなるでしょう。
2. CFPの視点:60代からの「手取り最大化」シミュレーション

ファイナンシャルプランナーとして、この改正を個人のライフプランにどう活かすかを考えると、単なる「年金カットの緩和」以上の大きな意味があると感じています。
「働き損」の呪縛からの解放と手取り最大化
これまでの50万円基準では、例えば月給40万円を得ながら月15万円の年金を受け取ろうとすると、年金が大きくカットされていました。
しかし、新しい62万円基準であれば、月給45万円を得ていても、年金が月17万円程度までなら全額受給できる計算になります。これは、現役時代に近い水準で働き続けながら、年金も満額受け取れる可能性が高まることを意味します。
結果として、60代以降の「手取り」を最大化し、経済的なゆとりを確保しやすくなるのです。
資産寿命を延ばす戦略
60代で年金を全額受け取りながら、現役時代と変わらない給与所得も維持できれば、その分、個人年金やNISA(少額投資非課税制度)などで積み立ててきた運用資産を取り崩す時期を後ろ倒しにできます。
これは「人生100年時代」と言われる現代において、老後の「資産寿命」を延ばすことに直結する、非常に重要な戦略です。長く働くことで、資産をより長く運用に回し、複利効果を享受することも可能になります。
社会保険料と税金のバランスに注意
一方で、CFPとして皆さんに注意を促したいのは、「額面」と「手取り」の差です。給与が増えれば、当然ながら所得税・住民税、そして社会保険料も増加します。
特に2026年度からは「子ども・子育て支援金」の上乗せ徴収も始まっており、実質的な負担増も考慮に入れる必要があります。
額面収入が増えても、手取りが思ったほど増えないという事態も起こり得ますので、ご自身の状況に合わせた精緻なキャッシュフロー表を作成し、将来の収支を正確に把握することが不可欠です。
3. 中小企業診断士の視点:ベテランの知恵を「企業の武器」に変える

次に、中小企業診断士の視点から、この制度改正が企業経営、特に多くの中小企業にどのようなインパクトをもたらすかを考えてみましょう。
現在、多くの中小企業が直面しているのは、深刻な「人手不足」と、ベテラン社員の退職に伴う「技術承継」の課題です。
就業調整による「機会損失」の解消
これまで多くの中小企業では、優秀なベテラン社員が「年金が減るから」という理由で、週3日勤務や短時間労働に甘んじているケースが散見されました。
これは企業にとって、貴重な知識や経験を持つ人材の「機会損失」に他なりません。
62万円への基準引き上げは、こうした「働けるのに働かない」というミスマッチを解消し、ベテラン社員がより長く、より意欲的に活躍できる環境を整える強力な追い風となります。
高度外国人材や若手とのハイブリッド活用
診断士として私が提案したいのは、シニア人材の「伴走型」活用です。ベテラン社員が長年培ってきた暗黙知やノウハウを、AIやデジタルツールに強い若手社員や、増加する外国人材に継承していく。
そのための「指導役」や「メンター」としての対価を、企業が年金を気にせず支払えるようになるメリットは計り知れません。
異なる世代やバックグラウンドを持つ人材が協働することで、企業全体の生産性向上やイノベーション創出にもつながるでしょう。
賃金制度の再設計と生産性向上
企業側には、この62万円という新しい「壁」を意識した賃金体系の再設計が求められます。定年延長や再雇用時の給与設定において、ベテラン社員のモチベーションを最大限に引き出しつつ、法定福利費の増加をどう収益でカバーするか。これは経営戦略の重要な課題です。
生産性向上に向けた設備投資(例えば、中小企業経営強化税制の活用など)とセットで議論を進め、持続可能な企業成長を目指す視点が不可欠となります。
4. CFP×中小企業診断士のシナジー:定年を「新しいスタート」にするために

私自身、56歳でCFPを取得し、現在は中小企業診断士の試験に挑戦しています。なぜこの2つの資格なのか。それは、これからの時代、個人の幸せ(FP視点)と組織の成長(診断士視点)を切り離して考えることはできないと強く感じているからです。
60歳の定年を迎えたとき、私たちは「年金をもらうだけの人」になるのか、それとも「スキルを活かして社会に貢献し続ける人」になるのか。2026年の制度改正は、後者を選ぼうとする人々への強力なエールだと、私は捉えています。
私たちが今、準備すべき3つのこと
この新しい時代を自分らしく生き抜くために、私たちが今から準備すべきことは何でしょうか。私は以下の3点を提案します。
- スキルの「棚卸し」と「掛け合わせ」:単なる実務経験だけでなく、FPのような専門知識や診断士のような経営的視点を加えることで、自身の市場価値を再定義する。これまで培ってきた経験に、新しい学びを掛け合わせることで、唯一無二の強みを生み出すことができます。
- 制度の「正しい理解」:2026年には在職老齢年金以外にも、社会保険の適用拡大や税制改正が目白押しです。常に最新情報をキャッチアップし、それがご自身のライフプランにどう影響するかを正しく理解し、反映させる。情報収集を怠らないことが、未来への備えとなります。
- 「稼ぐ力」の維持:インフレが続く現代の経済状況下では、貯蓄を守るだけでなく、働いて稼ぐ力が最大の防御となります。定年後も、自分のペースで、自分の得意なことで収入を得られる「稼ぐ力」を身につけておくことが、精神的なゆとりにもつながります。
5. 具体的なアクションプラン:今日から始められる3ステップ
ここまで制度の解説と視点の提示をしてきましたが、「では具体的に何から始めればいいのか?」と感じている方も多いのではないでしょうか。私自身の経験も踏まえ、今日から始められる具体的なアクションプランを3つご提案します。
ステップ1:自分の「年金見込額」を正確に把握する
まず最初にやるべきことは、ご自身の年金見込額を正確に把握することです。「ねんきんネット」にログインすれば、将来の年金見込額をシミュレーションできます。
65歳時点での基本月額がいくらになるのか、そして現在の給与(総報酬月額相当額)と合算して62万円の基準にどの程度余裕があるのかを確認しましょう。この数字を知ることで、60歳以降にどの程度働いても年金がカットされないのか、具体的なイメージが湧きます。
ステップ2:60歳以降の「働き方シナリオ」を3パターン作る
次に、60歳以降の働き方について、少なくとも3つのシナリオを描いてみましょう。例えば、
- シナリオA:現在の会社で再雇用(給与は現役時の60〜70%)
- シナリオB:専門スキルを活かして独立・フリーランス
- シナリオC:週3〜4日勤務のパートタイム+副業
それぞれのシナリオで、月収がいくらになるか、年金と合わせた手取りがどう変わるかをシミュレーションしてみてください。62万円の新基準のもとでは、シナリオAやBでもフルに年金を受け取れる可能性が高まっています。
ステップ3:「スキルの棚卸し」を紙に書き出す
最後に、ご自身のスキルや経験を紙に書き出してみましょう。会社での実務経験、業界知識、人脈、そして新たに取得した資格や学び。
これらを「掛け合わせ」で考えることで、定年後の新しいキャリアの方向性が見えてきます。私の場合は、長年の会社員経験×CFP×中小企業診断士という掛け合わせで、「家計と経営の伴走者」という独自のポジションを目指しています。
本ブログでは、ライフプランや資産形成に関する記事も掲載しています。ぜひ合わせてご覧ください。
- FP実践|住宅購入と教育費・老後資金の両立をどう実現するか — 住宅ローンと教育費、老後資金のバランスをキャッシュフロー表で解説しています。
- 50代 FP資格活用法|仕事・副業・セカンドキャリアに活かす — 50代からFP資格を活かしてキャリアを築く方法をまとめています。
- 年末繁忙期前にやるべき”お金と仕事の整え方” — お金と仕事の見直しポイントを実体験から解説しています。
参考情報・外部リンク
今回の制度改正について、より詳しく知りたい方は以下の公的機関の情報もご参照ください。
- 日本年金機構|在職老齢年金の計算方法 — 在職老齢年金の仕組みや計算方法について公式情報が掲載されています。
- 厚生労働省|年金制度改正について — 2026年度の年金制度改正の概要が確認できます。
- 中小企業庁|経営強化税制 — 中小企業向けの税制優遇措置について解説されています。
6. 2026年の経済環境を踏まえた資産防衛の考え方
在職老齢年金の改正と合わせて考えておきたいのが、2026年現在の経済環境です。ここでは、CFPの視点から、60代を見据えた資産防衛の基本的な考え方をお伝えします。
インフレ時代の「守り」と「攻め」
2026年5月現在、日本のインフレ率は依然として2%台後半で推移しています。食料品やエネルギー価格の上昇は、特に年金生活者にとって大きな負担となります。仮に年間のインフレ率が2.5%で推移した場合、10年後には現在の100万円の購買力は約78万円相当にまで目減りする計算です。
このインフレ環境下では、「貯蓄を守る」だけでは不十分です。資産の一部をインフレに強い資産(株式、不動産、物価連動国債など)に配分し、購買力の維持を図ることが重要です。
一方で、60代という年齢を考えると、過度なリスクテイクは避けるべきです。
新NISA制度の活用戦略
2024年から始まった新NISA制度は、60代の資産形成にも大きな味方となります。年間360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)の非課税投資枠を活用し、配当金や売却益を非課税で受け取ることができます。
特に、在職老齢年金の改正により給与収入を維持しやすくなった今、その余裕資金をNISA口座で運用に回すという戦略が有効です。
60歳から65歳までの5年間で、毎月10万円をNISAで積み立てた場合、年利4%で運用できれば約660万円の資産を非課税で形成できます。これは老後の大きな安心材料となるでしょう。
iDeCo(個人型確定拠出年金)の出口戦略
iDeCoに加入している方は、60歳以降の受け取り方についても検討が必要です。一時金で受け取るか、年金形式で受け取るかによって、税金の負担が大きく変わります。
退職所得控除を活用した一時金受取と、公的年金等控除を活用した年金受取を組み合わせる「併給」という方法もあります。
ご自身の退職金の額や他の所得状況に応じて、最も税負担が軽くなる受取方法を事前にシミュレーションしておくことをお勧めします。
7. 中小企業の現場から見た「シニア活用」の成功事例
中小企業診断士の学びの中で、シニア人材の活用に成功している企業の事例に触れる機会があります。ここでは、62万円への基準引き上げが追い風となりうる具体的なケースをご紹介します。
事例1:製造業A社(従業員50名)のベテラン技術者活用
金属加工を手がけるA社では、定年後の再雇用社員が「年金が減るから」と週3日勤務を希望するケースが続出していました。しかし、熟練の技術を持つベテラン社員の稼働日数が減ることで、若手への技術伝承が滞り、不良品率が上昇するという問題を抱えていました。
62万円への基準引き上げにより、A社ではベテラン社員に月額35万円の給与を提示しても年金がカットされない環境が整いました。結果として、週5日フルタイムで勤務するベテランが増え、「技術伝承プログラム」を正式に制度化。
若手社員とペアを組んで指導にあたる体制を構築し、1年間で不良品率を30%削減することに成功しています。
事例2:IT企業B社(従業員30名)のシニアコンサルタント制度
Webシステム開発を行うB社では、60歳で定年を迎えたプロジェクトマネージャーを「シニアコンサルタント」として再雇用。クライアントとの折衝や要件定義など、若手エンジニアが苦手とする上流工程を担当してもらう仕組みを作りました。
月額40万円の報酬を設定しても、年金と合わせて62万円以内に収まるため、本人の手取りは大きく改善。モチベーション高く働いてもらえるようになり、顧客満足度の向上と若手の育成を同時に実現しています。
事例3:小売業C社(従業員20名)の「経験者採用」戦略
地方で食品スーパーを経営するC社では、人手不足を解消するため、他社を定年退職したシニア人材を積極的に採用する戦略に転換しました。
特に、大手小売チェーンで店長経験のある60代を「エリアアドバイザー」として月額30万円で採用。複数店舗の売場改善や従業員教育を担当してもらっています。
在職老齢年金の基準引き上げにより、こうした「セカンドキャリア人材」が年金を気にせず働ける環境が整ったことで、C社の採用力は大幅に向上。経験豊富なシニア人材の知見を活かし、既存店の売上を前年比8%向上させる成果を上げています。
中小企業経営者へのメッセージ
これらの事例に共通するのは、シニア人材を「コスト」ではなく「投資」として捉え直している点です。62万円への基準引き上げは、企業がシニア人材に適正な報酬を支払いやすくなったことを意味します。
人手不足に悩む中小企業こそ、この制度改正を経営戦略に組み込み、ベテランの知恵と経験を最大限に活用する仕組みづくりに取り組んでいただきたいと思います。
結びに代えて:変化を「チャンス」に変える地図を持とう
2026年5月の現在、日本経済は大きな転換点にあります。賃上げの勢い、制度の変革、そしてテクノロジーの進化。これらをバラバラのニュースとして捉えるのではなく、ご自身の人生という一本の線につなげて考えてみてください。
「62万円の壁」の緩和は、私たちがより自由に、より長く、自分らしく働くためのパスポートです。
そして、CFPと中小企業診断士のダブルライセンスの視点を持つことは、そのパスポートを最大限に活用するための「地図」を持つことに他なりません。私自身も、この地図を手に、これからの人生を切り拓いていきたいと強く願っています。
定年を「終わりの始まり」にするのではなく、「新しい挑戦のスタートライン」にする。そんな前向きなシニア世代が、これからの日本を支える原動力になると、私は信じています。
皆さんも、ぜひこの機会に、ご自身の未来について考えてみませんか。
著者プロフィール
ラフロイ
56歳、現役会社員。新卒から約28年勤めた会社を50代で退職し、現在は新しい職場で働きながら、CFPと中小企業診断士のダブルライセンス取得に向けて活動中。
2026年3月にCFP認定を取得し、同年の中小企業診断士試験合格を目指し邁進しています。
定年後は「家計と経営の伴走者」として、シニア世代のキャリア支援と中小企業の活性化に貢献することを目指しています。過去の経験を整理し、FPと中小企業診断士の学びを発信することで、同年代の人生やお金の不安に寄り添うブログ「What’s Next 007」を運営しています。

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